カテゴリー : 05.読書の小部屋
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2005-12-16
朝のラジオから
朝通勤時にFM横浜を聴いています。
8時少し前の5分ほどの短い時間なのですが、 Books A to Z というコーナーがあって色々な本が紹介されます。
そこではその本の売りの部分やおおまかなあらすじなどが紹介されます。もちろん全部の筋が紹介されるのではなく、「えっ、それからどうなるの?」と思わせる、ちょうどいいところまでしか紹介されません。
車の中で聞いていて、「この本読んでみたいなあ・・・」と思ったことが何度かあり、退社後帰る道々買い求めたこともありました。今日は今までこのコーナーを通じて読んだ本をご紹介したいと思います。
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『つめたいよるに』 江國香織 著
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『飢餓海峡』 水上勉 著
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『対岸の彼女』 角田光代 著
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『ユージニア』 恩田陸 著
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『五年の梅』 乙川優三郎 著
『つめたいよるに』は21の短編が収められた作品集ですが、番組ではいちばん最初に収録されている「デューク」が紹介されました。愛犬デュークと死に別れた主人公の若い女性がその愛犬の化身と出会う・・・といったお話なのですが、このわずか8ページの作品は2001年度のセンター試験に全文が出題され、それを読んだ多くの受験生が涙したというエピソードもあるとか・・・こんなに短い文章で多くの人を泣かせるなんてすごいですね。
『飢餓海峡』は戦後の昭和を舞台にしたひとりの男の立身出世の行く末が、深い悲しみと共に描かれた作品です。映画化もされていますし有名な作品ですので読まれた方も多いことでしょう。私も学生時代に読んだ記憶があるのですが、番組の紹介を聞いてもう一度読みたくなって手に取った作品です。昭和初期の古い時代を感じさせるものが好きなのですが、社会派ミステリーともいえるスケールの大きなこの作品は今回ご紹介した中で最も読み応えがあったようにも感じています。
『犯人に告ぐ』は50代の刑事がテレビのニュース番組に出演して犯人に呼びかけるという、前代未聞の捜査方法を試みた劇場型ミステリー。雫井作品は他に何冊か読んでいますが、この作品が一番良かったと思います。緊迫感がありラストまで一気に読ませる力があります。夜更かしさせられる作品です。
『対岸の彼女』は直木賞受賞作品。同い年のタイプの異なった二人の女性・・・謂わば対岸に住んでいるようなこの主人公達は友情を築くことができるのか、心の深いところで結ばれることができるのか・・・同時代を生き主人公達と同じ世代でもある作者の等身大の視線で、対照的でいて実は似た部分も多い二人の女性が描かれています。現代女性を、しかもちょっと人からずれた人間を上手に描いているなと思いました(私はあまり好きな作品ではないのですが・・)。
『ユージニア』は人気作家、恩田 陸のミステリー。約30年の年月を経て新たな様相を見せはじめた医師宅での大量毒殺事件。その捜査を担当した刑事、事件をもとに本を書いた女性、彼女の兄、惨殺された家族の中でただひとり生き残った女性らの目を通して事件が語られます。真実がどこにあるのかはらはらさせられますが、ちょっと現実離れした(そこがいいのかもしれませんが)不思議なお話でもあります。同じ作者の作品では私は『夜のピクニック』のほうが断然好きです。こちらは「本屋さん大賞」を受賞したことで、有名ですね。
『五年の梅』も直木賞作家の作品。本作品は5つの中編・短編が収められた山本周五郎賞受賞の作品集です。江戸時代の市井の人々が手探りでつかむそれぞれの幸せが描かれています。乙川作品では『生きる』(直木賞受賞作)を過去に読んでいます。それまで時代小説は苦手だったのですが、そんな私に「時代小説も面白いなあ」と感動させた作品です。その後この作者の作品を何冊か読みましたが、なまじの現代小説よりも泣けます。心が洗われるような感動があって大好きな作家の一人でもあります。
他にも番組で紹介されていつか読んでみたいなあ・・と思っている作品がいくつかあります。
『シービスケット あるアメリカ競走馬の伝説』 ローラ・ヒレンブランド 著/奥田祐士 訳 馬主、ガンコな天才調教師、右目の見えない騎手、そして脚を引きずる馬シービスケット・・・1930年代のカリフォルニアを舞台にした、この「3人と1頭」のタッグが歩んだ波瀾万丈の実話です。「感動の足りない人はぜひ!」との折り紙つき作品ですが、動物もの・・ということで特に気になっている読んでみたい本です。
『博士の愛した数式』 小川洋子 著 パーソナリティーが2003年に出会った小説のナンバー1にあげています。28歳の家政 婦の「私」と老数学者の「博士」そして「私」の10歳の息子「ルート」が織り成す温かくて 優しい、それでいて驚きに満ちた物語。最近映画化されて話題にもなっていますね。
『事件』 大岡昇平 著 本物の裁判に立ち会っているような臨場感が味わえる、日本の法廷ミステリーの傑作。 ミステリー好きですので、ぜひ読んでみたい本です。読み応えがありそうです。
”活字がないと生きていけない”FMヨコハマ ニュースアナウンサー 北村浩子さんが、これは!という作品を、感じたままに紹介したこのコーナー。新刊本を中心に、単行本、文庫本から写真集までジャンルにこだわらず、話題作を幅広くPick Upしています。
私はちょっと読む本に迷ったときにこのコーナーを参考にしています。話題の本ももちろんですが、古い作品、古典的な作品を見直したり読みなおしたりする、いいきっかけにもなっています。
横浜近辺の方でないとラジオのほうは聴けませんが、HPのほうには簡単な作品の紹介がありますので、本好きの方はどうぞご覧になってくださいませね。
2005-12-04
小さな幸せさがし
先日のこと、本屋さんで一冊の本を買いました。
イラスト・エッセイ 「毎日がちょっと幸せ」という本。 作者は植草桂子さん・・・湘南に夫と愛犬とともに暮らしていらっしゃるフリーのイラストレーターの方です。
その本は平積みされているようなものではなくて、棚の中にひっそりと入っていたのですが、そのタイトルが目に飛び込んできて思わず手に取ってしまいました。
本の中には毎日の暮らしを楽しく豊かにするヒントが可愛くて繊細なイラストとともに、ここかしこに散りばめられています。
レースの布をカーテンがわりにあしらう方法・・・。
半端リボンやボタンの使い道・・・。
好きなお花をドライフラワーリースにしたり・・・。
などなどインテリアや手芸の好きな作者のちょっとしたアイディアがステキです。
そんな中で特に心惹かれたのは、愛犬との生活を楽しんでおられるところです。 植草さんの玄関には、ご自身がデザインしたタイルによって手作りされた愛犬の足の洗い場があります。これはご自分で作られたもの。「なければ自分で作っちゃおう」・・・・と制作。時間と労力を惜しまないそのバイタリティーには感服します。
そして、「家庭内のチアリーダー」と称されるボーダーコリーの愛犬・・・このチアリーダーとの散歩の時間をこよなく愛している・・・とおっしゃいます。
海までの往復5キロ、約1時間の散策に、時間によって変わる空の色、季節によって見られる鳥など、毎日違う発見があるそうです。そして歩きながらの思考は何故か冷静になれ、堂々巡りだった考えにもすっきりと結論が出せたり、長い散歩ができる健康な体にも改めて幸せを感じたり・・。植草さんの大事な癒しの時間になっています。
犬が好きで・・・いつか飼いたい・・犬との散歩を楽しみたい、と思っている私にとっては憧れの生活です。
ご一緒に散歩をされているお写真、洗い場で足を洗ってあげているお写真・・・わんちゃんが植草さんを見上げているその二つのお写真がまたとてもいいのです。本当に可愛くって、お二人が(一人と一匹?)信頼関係で結ばれていることが感じられて、見ている私の心も和んできます。
また巻末にはエッセイだけのページもあり、日頃なんとなく思っていること、感じていることも綴られています。その中の「複雑なお年頃」というものが心に残りました。
この「複雑なお年頃」・・・というのは40代のことなのですが、若いつもりでいても、体の老化にいやおうなしに気づかされる「厄介な年頃」・・・植草さんはそう呼んでいます。 「だから若さに対する未練や執着は他の世代の比ではない・・・・そんなやきもき、ジタバタもがきをあまり意識せず、一人蚊帳の外といきたいものだけど、アンチエイジングという言葉にすごく弱いのが悲しいところだ・・・」と語られています。
そんな作者のつぶやきにも、妙に納得して感銘を受けてしまいました。私もそんな「複雑なお年頃」・・・なのかな?なんて。
さてさて、イラストといえば、私が大好きなイラストレーターは何といっても大橋 歩さんなのです。彼女のほんわかとしたイラスト・・・そしてお書きになるものすべてが好きで、彼女の著書をたくさん所有しているのであります。
大橋さんのイラストエッセイについても、またいつかここで触れてみたいと思っています♪
2005-11-26
巨大企業の実態に迫る!
読書が好きです。 一人の作家を読破したり、ジャンルにこだわったり、深く研究したり・・・などストイックな読み方はせずに、自由気ままに好きなものを読んでいます。
集中して読むこともあれば、まったく読まない日々もあったりします。 いまは・・・あまり読んでいません。なぜならこのHPにはまってしまって、時間が取れなくなってしまったからです。
そんなこんなでご紹介できる本がありませんが、今日は少し前に読んだ本のことを書いてみたいと思います。
『沈まぬ太陽』 山崎豊子著 (新潮文庫) (一) アフリカ篇・上 (二) アフリカ篇・下 (三) 御巣鷹山篇 (四) 会長室篇・上 (五) 会長室篇・下
1 読むきっかけ
少し前にテレビで放映されていた「女系家族」を観て、山崎作品が読みたくなりました。若い頃に読んだ『白い巨塔』がとても面白くてインパクトがあったからです。
2 内 容
主人公 恩地 元は最高学府T大を出、将来を嘱望されたエリートとして国民航空(架空名称)に入社。学生時代の運動家としての実績とその優秀さから、労働組合委員長に抜擢されます。「迷える組合員」のため職務を全うする恩地は、やがて「輝ける委員長」としての地位を確立しますが、その反面会社からは「アカ」のレッテルを貼られ、パキスタン、イラン、ケニアへと、内規を無視した差別人事による「流刑」に甘んじることになります。その歳月は10年にも及びました。 その間会社は一部の幹部が職権を濫用して甘い汁を吸い、不正と乱脈のはびこる「魑魅魍魎」(ちみもうりょう)と化していたのでした。
そんな折、ついに「その日」が訪れます。航空史上最大のジャンボ機墜落事故、犠牲者は520名・・・。「遺族お世話係」を命じられた恩地は、想像を絶する悲劇に直面します。
一方、政府は利潤追求を第一とした経営にメスを入れるべく、組合問題に実績のある某紡績会社社長、 国見の新会長就任を要請。恩地は国見に請われて新設された会長室部長に抜擢されます。 次第に白日の下にさらされる巨大企業の腐敗の構造・・・。会長国見と恩地のひるまぬ戦いは続きますが、政、財、官が癒着する利権の闇はあまりに深く、巧妙に張りめぐられていて、その戦いは終わりなき暗闇の始まりでしかありませんでした。
3 感 想
一冊500ページ近い文庫が5冊・・・と長いものであるにもかかわらず、厭きさせずに読ませますので、苦になることはありません。
まず驚くべきことは作者、山崎豊子の取材力のすごさです。 「この作品は多数の関係者を取材したもので、登場人物、各機関、組織なども事実に基き、小説的に再構築したもの」と作者は冒頭に記しています。計り知れないほどたくさんの時間をかけて、数え切れないくらいのたくさんの人に会って・・・とそうした苦労を重ねて成り立った作品だと思うのです。この作者にはこうした作品が多いことから、”大量消費型のような「量産」はできない作家”だなあ・・・と改めて感じました。
5冊中私が最も惹きつけられたのは、「御巣鷹山篇」です。凄惨な事故の記憶が胸苦しいほど鮮やかに蘇ってきます。
今年は御巣鷹山事故から20年の節目の年でした。8月12日にはテレビで何本かの特番が組まれました。私もそれを見ていましたので、「定年後も独自の調査を行っている元機長とは、本の中に出てくるあの人かしら・・・」などと興味深く読むことができました。 また、『墜落遺体』<飯塚 訓・講談社>(520人の全遺体の身元確認までの127日を、最前線で捜査に当たった責任者が切々と語った記録)いう本も以前に読んでいましたので、それとも重なり合って、事故を色々な角度から考えることができました。
ご遺族は実名で登場する方も多く、そのことにより一層の臨場感を得ているように思います。どのご遺族も言葉の掛けようもないほどお気の毒なのですが、特に、親もすでに他界されていて、この事故で一人息子と孫を失って天涯孤独になられた元教師の方の姿が一番心に残っています。多額の補償も拒否されて(この事故で親を失った子供の遺族基金に当てて欲しい・・と言われたそうです)一人四国お遍路の旅に出られたその孤独を思うとやりきれません。
改めて事故とは、犠牲者とその家族にとって、その時だけのものではなく、ながいながいときを経てもなお解決することのできない悲しく、残酷なものであるのだな・・・と感じました。
ちなみに夫もこの本を読んだのですが、一番良かったのは「アフリカ篇」とのこと。
アフリカの広大なサバンナでの猟・・・ケニアの実情と現地での生活・・・支店とは名ばかりで机さえなかった営業所の実態・・・家族と引き裂かれたことによる孤独感・・・”アフリカの女王”として君臨する日本人女性の存在・・・などなど私などには想像すらつかない、このケニアでの生活を記した「アフリカ篇」は、確かに惹きつけられるものが大いにあります。
人それぞれ感じ方も読み方も違います。当たり前なようですがそのことを改めて感じ、だからこそ面白いのだなあ・・・と思いました。
そして最後に・・名門企業と思っていたこの会社の実態を知り、空恐ろしく、暗澹たる思いでいっぱいです。夫に言わせれば、「大企業とはみなこんなもの・・・」だそうですが。この会社の飛行機に乗るのがちょっと恐ろしくなった・・・という事実も付け加えておきましょう・・・。
4 追 記
ところで、読後面白い事実に私は出会いました。主人公 恩地には実在するモデルとなった方がいます。作家・山崎はその方に会いにはるばるケニアの地まで足を運んでいますが、なんとわたしの母と「恩地」ことOさんが以前に書簡のやり取りをしたことがあるというのです。
母は短歌をやっていてある結社に属しているのですが、その中にOさんのいとこに当たる方がいらっしゃったのです。そんなご縁でアフリカでお撮りになった野生動物の写真集をOさんから送っていただいたのでした(Oさんは定年後、アフリカ研究家、写真家としてもご活躍されています)。そして母がお礼状を出して・・・とそんな事情で何回かお手紙のやり取りをしたそうです。
いとこの知り合い・・・というだけのご縁なのに、写真集やお手紙を送ってくださった(それもすぐに送ってくださったとのこと)Oさんは、なんて義理堅く、礼儀正しい方だろう、と感動しました。
まっすぐに進んでいれば必ずや高い地位にまでのぼりつめたに違いないOさん・・・。しかし運命の女神はいつまでも彼に微笑みかけることはありませんでした。結局Oさんは遥けきアフリカの地で定年を迎えます(この作品の最後も恩地が再びアフリカに向かうところで終わります)。 しかしその後アフリカ研究家として名を馳せ、多くの著書、写真集を出されたことを思うと、この運命も彼にとっては悪いものではなかったのかもしれません(結果的にですが)。 押さえつけられても、押さえつけられてもなお、特異な才気が輝きを放つ・・・。きっと小さな器には収まりきれなかった方なのですね。そんなことも感じさせられた作品でした。
(Oさんは数年前に亡くなられています。その葬儀には大勢の弔問客があったそうです)
ずいぶんと長くて、取り留めのないものになってしまいました。作品が長編だったため・・・ということでお許しくださいませ。 最後までお付き合いくださった方、ありがとうございました! 次回からはもっと簡潔にまとめる努力をしますね。
今日は近くの大病院に行きました。
2月に受けた人間ドッグに引っかかってしまい、再検査の紹介状が出てしまったからです。「何ともないに決まっている・・・」そう思いつつもドキドキしながら病院に行きました。紹介状があるとはいえ大病院ですので、予約もなしではどれくらい待たされるか分かりません。少し前に購入していていまだ読んでいなかった 『チョッちゃん』 (石井 宏著・草思社)という本を持参しました。
この『チョッちゃん』は「涙なしに読めない放浪犬チョッちゃんの物語」という本の帯と、ぱらぱらと覗き見た内容とで衝動買いしたものです(動物のお涙ものに弱いのです〜)。
病院では優に2時間は待たされましたので、この間一気に読むことができました。内容は動物もので肩のこらないものでしたし、お話にぐっと引き込まれてしまったこともあるでしょう。いつしか私は本の世界に没頭・・・待合室は私の読書の小部屋とあいなったのでしたー。
(この本の著者は、主役である一家のおそらくは友人か知人であると思われます。実話であるこの話はそんな第三者の目から冷静に書かれています。)
放浪犬、チョッちゃんは骨と皮ばかりのやせこけた犬でした。おまけに極度の栄養失調からか、毛がすべて抜けてしまっている”はだか犬”でした。こんなみずぼらしい犬に主人公・西井文恵さんは毎日えさを与え続けました(文恵さんはたくさんの猫ちゃん達にも毎日あげていました)。
たくさん食べては毎度お腹が膨れるチョッちゃんが、翌日にはまた骨と皮になって現れるのを不思議に思った文恵さん・・・彼女はあるときチョッちゃんのあとをつけていきます。そしてある事実に突き当たることになるのです。
実はこのチョッちゃん、廃屋で自分の産んだ仔犬3匹と暮らしていたのです。チョッちゃんには仔犬に与えるえさもなく(栄養失調で母乳も出ない)、窮地の策として文恵さんからもらったえさをたらふく食べてはそれを吐き戻して仔犬たちに与えるという子育てをしていたのでした(吐き戻すとは鳥のようですね。犬にそんな知恵があるとは驚きでした)。
その後もたくさん食べては廃屋に帰って行き、また翌日痩せこけた体で現われる・・・というチョッちゃんと文恵さんの日々は続きます。やがて優しさと愛をもって自分に接してくれる文恵さんを信頼したのでしょう・・・あるときチョッちゃんは一匹の仔犬を連れて文恵さんの前に現れるのです。文恵さんに自分の子を託しに来たのでした。おりしも保健所がこの親子を捕獲しようと動き出そうとしているときでした。
仔犬はすでに覚悟ができているのか、何もいわず文恵さんにすんなりと抱かれました。チョッちゃんはじっと座ったまま文恵さんの腕の中を見ています。親子の別れの瞬間でした。「どうぞよろしくお願いします」というチョッちゃんの声が文恵さんには聞こえてくるようでした。
その後もチョッちゃんは2匹目、3匹目とそれぞれの子の「子別れの時期」を見計らって文恵さんに託しに来ます。そうして自分の大役を果たして廃屋へと帰って行きますが、やがてはチョッちゃん自身もこの西井一家に引き取られることになります(良かったネ!)。
健康を回復したチョッちゃんの毛はあるときたった2日間で見事に生え揃います。ここに至って初めてチョッちゃんが立派な柴犬であることが分かるのでした(”はだか犬”のときは犬種が全くわからなかったそうです)。
時は流れ2003年3月、チョッちゃんは七歳(推定)で永眠。元は飼い犬でしたが放浪犬となってからは自分の体を犠牲にしての子育てをし、波乱万丈の人生(犬生?)を送ったチョッちゃん。後半生は西井家に引き取られて自分の子とともに幸せなときを過ごすことが出来ました。あまりに急で、あまりにあっけないチョッちゃんの死を西井夫妻は「桜のよう・・」と評します。
「でも、短かったけれど、チョッちゃんはすばらしい命を全うしたね。命というものの模範のようなものがあるとすれば、それはチョッちゃんだったね。」 「ねえ、あなた・・・・・もし、チョッちゃんが桜だったとしたら、これから毎年会えるわね。」
こんな風に語る夫妻の最後の言葉がとても印象的です。
このチョッちゃんという柴犬の類まれな賢さはとても感動的です。しかしそれと同時にこの話で感じ取れる西井家の人々の人間性というものもまた感動的なのでした。娘さんは日本の学校に適応できず、やがては本人の希望でインターナショナルスクールへと進学。その後アメリカの芸術高校に入学・・・成長した後はサンフランシスコ・オペラ劇場のヴァイオリン奏者として活躍されます。日本の中では「適応障害」のひとことで片付けられてしまいそうなお嬢さんを、音楽を愛するこの夫妻は実におおらかに育てます。そして動物達に注ぐ大きな大きな愛・・・読んでいてとても感心します。そんなこともまたこの話に大きな花を添えているようでした。
ちょうど病院の待合で「そろそろ名前が呼ばれるかな・・・」と思われる頃この本を読み終わりました。感動で胸はいっぱい・・・目はうるうるとなっています。「いま呼ばれたらどうしよう」・・・内心あわてました。先生の前には涙ぐんだ患者が・・・どうみても自分を重症患者だと思い込んでいるバカで哀れな女としか映らないでしょう。いや〜ん(汗)。本を閉じ、しばし目も閉じました。そして冷静さを取り戻したころ、「さくらこさ〜ん」と呼ばれ診察室へ・・・。ああ、セーフ!
最後に検査の結果に問題がなかったことも付け加えておきまーす(ご心配おかけしました)。 m(_ _)m