こざくら日和 : 新旧小説味くらべ?!

2006-05-13

新旧小説味くらべ?!

ポスト @ 20:51:26 | 01.全て,05.読書の小部屋

最近二冊の小説を同時進行で読み終えました。井上靖 著 『氷壁』と、石田衣良 著 『4TEEN』。全くスタイルも味も違うこの二つの小説に時代の流れを感じました。

『氷壁』が発表されたのは昭和32年。 登山家である主人公は登山に同行した親友の死に遭遇します。自殺説も流れる中、主人公はあらゆる葛藤と戦いながら親友の死の真相をつきとめようとします。親友の妹や愛していた女性との恋愛模様も絡まり、小説は思わぬ悲劇の終盤へと展開します。

この小説は最近NHKでドラマ化されました。玉木宏、山本太郎、鶴田真由のキャストで舞台は前穂高からK2へと変えられていました。私が『氷壁』を買ったのは昨年秋。そのころ上高地を旅行する予定があり、彼の地が舞台となったこの小説を読んでみようと思ったからでした。その後NHKでドラマになると知ったのですが、まだ本を読んでいませんでしたので、TVの方は敢えて見ませんでした(どうだったのでしょう・・)。

さてもう一方の『4TEEN』は言わずと知れた石田衣良の直木賞受賞作。ドラマ化もされた『池袋ウエストゲートパーク』の作者として有名ですね。『4TEEN』は99年に「小説新潮」に第一作が短編として発表され、その後半年に1本というペースでシリーズとして発表されました。

こちらの舞台は東京湾に浮かぶ人工島、月島。中学2年の同級生4人が繰り広げる物語です。友情、恋、性、暴力、病気、死・・・。それらを巡って成長していく14歳の少年像がとても軽いタッチとテンポで爽やかに描かれています。

この二つの小説を同時進行で読んでまず感じたことは、「文、文体、文章というものは生きている」ということでした。『氷壁』から『4TEEN』へ・・・確実に文章は進化(と言っていいのでしょうか?変化の方が適切かもしれません)しています。こんなにも変わるものかと思わせられました。私は古い時代の小説も好きですしどちらがいいというのでもありませんが、今の時代には今の文章があるなと感じました。

『4TEEN』には今の時代への共感があります。冒頭から飛び出す「マクドナルド」―。そして「ママチャリ」「コギャル」「サンクス」などなど時代を映す言葉や固有名詞がぽんぽんと飛び出します。登場するのは拒食症の少女やちょっとクラスで浮いている少年、ゲイの少年だったりします。題材も家庭内暴力や家出など今の時代を反映する問題ばかり。このように題材はとても深刻なのですが、描き方はシリアスではなくてむしろとても爽やかです。現実はどうなのか・・なんてことが頭に浮かぶのも事実ですが、涼やかな風が吹き抜けるようなこの小説はちょっぴりほろ苦く、ちょっぴり甘く、心にキュンときてなんだか心地良い・・・。

ちなみにうちの次男も14歳・・・。この小説はついつい親の目で読んでしまいがちで、そんな思わぬ弊害もありました(本当に14歳はこんなにススンデル?!と半信半疑^^;)。本当は14歳の自分に戻って読んでみたかったですね。その方がずっと面白かったと思います(時代が確実に違いますが〜^^;)。

話は飛びますが、青春小説と言えるもので他に印象に残っているのは恩田 陸の『夜のピクニック』です。たった一夜の夜行祭に高校生活のすべてが凝縮されています。第二回本屋さん大賞を受賞した作品として人気の高い作品です。

そして大分前に読んだものですが、森絵都の『永遠の出口』も良かったです。児童文学を手がける森が始めて書いた大人向けの小説で、小学4年生から高校3年生までの9年間の出来事とその成長の軌跡を連作風に描いたものです。小説家としての作者の力量が改めて認められた作品でした。

最後にもう一つあげたいのが林 真理子の『葡萄が目にしみる』―。素朴で多感、ちょっとでこぼことした不恰好な内面を持つ少女の成長が、目にしみる四季のうつろいを背景に鮮やかに描かれています。林の分身?!なんてことを思わせる主人公がとても魅力的でした。どちらも自分の過ぎ去った青春の記憶と重なって、ノステルジックな気分にさせられる大好きな作品です。

最後に井上作品について少し。『氷壁』は山岳小説としても、恋愛小説としても、ミステリーとしても少し中途半端な感じがしたのですが、如何なものでしょうか。私は井上作品では今回の『氷壁』より『しろばんば』の方が断然好きです。

『しろばんば』は両親もあり弟妹もありながら、一人両親の許を離れて血の繋がらぬ祖母(曽祖父の妾)に育てられたという特殊な境遇にあった井上の自伝小説ですが、伊豆の豊かな自然を背景に少年の心の機微が描写され、長編であるにもかかわらずまったく飽きさせることがありません。今では国語の入試問題などにも使われたりして古典の域に達したかと思わせる『しろばんば』ですが、大正時代の山村生活の薫り高い、味わい深い文章が秀逸で、私の大好きな作品のひとつです。

・青春小説いろいろ

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コメント(8件)

Re: 新旧小説味くらべ?!

ずいぶん本からは遠ざかっています
読みかけるとほぼ毎回寝てしまうんです
しろばんば懐かしいですねー娘の部屋におろしや国酔夢譚、天平の甍がありました氷壁も読んだような気もするのですが何せ記憶が曖昧でこの機会に読み直してみます
森 絵都さん?なんか聞いたような・・
ありましたDIVE!!飛び込みの選手たちの話です表紙のモデルは知ってる方です(児童書?)
さくら子さんこれからも読まれた本紹介してくださいねー
自分で選ぶといつも同じ傾向の本を選んでしまうので
とても参考になります

From : りんご @ 2006-05-14 00:04:10 編集

Re: 新旧小説味くらべ?!

4TEEN、面白く読めたようですね。
本当に今が感じられる小説です。

「葡萄が目にしみる」は私もずい分前に読みました。
確か主人公の女の子の好きになった男子が痴漢だったという衝撃な展開でしたよね(笑)

最近はまた娘の部屋にあった東野圭吾の「ゲームという名の誘拐」を読みました。
これも今を感じる小説でした。
登場人物の心理についてはイマイチだけど、
純粋にストーリーを楽しめる小説ですぐに読み終えました。

古典(?)で好きなのは、ヘッセの「車輪の下」です。
15歳で読んだときと今では全く感想が違います。
今は親の気持ちになって読んでいるからなんでしょうね。

さくらこさんは単行本を購入されてるみたいで羨ましいです。
私も読みたい本をすぐに買ってみたいです。

From : オクサン @ 2006-05-14 14:32:34 編集

りんごさん

りんごさん、コメントありがとうございます!

森 絵都さん、児童文学を書かれる方でした。間違えて絵本作家と書いて
しまいました〜。訂正しました、ごめんなさいm(_ _)m
少し前まで朝日中学生ウィークリーを取っていたのですが、中高生に
人気の森 絵都さんをそこで初めて知りました。
森さんは中学時代いじめにあった経験をお持ちで、今のいじめに対する考え
やアドバイスをそこで書かれていたのが印象的でした。
児童文学界の各賞を次々と受賞されている才能の持ち主です。
この『永遠の出口』で初めて大人向けの小説を書かれたというので、
興味があり読んでみました。なかなか良かったですよ。
DIVE!!は知りませんでした。面白かったですか?

自分で選ぶと本は本当に偏りますね。どうしても好きなものばかり読んで
しまいます。
今は忙しくて休会中なのですが、以前読書会というものに参加していました。
そこでは決められた本(各メンバーが選んだ本)を読んできて一月に一回
集まり、その本についてフリートーキングをしていました。
その会に参加していたときには自分の興味のない本も読みますので
ずいぶんと興味や視野が広がったように思います。新しく好きになった作家も
たくさんできました。
井上靖の『しろばんば』もその会で読んだのですよ。
乙川優三郎なんかも新たに好きになった作家です。

From : さくらこ @ 2006-05-14 16:35:51 編集

オクサン

『4TEEN』、読みました〜。石田衣良初体験でした ^^
次男の年なので、「うちの子はこんなことないな〜しないよ〜」なんてことを
ついつい思いつつ読みました。
そう思っているのはやはり親だけなんでしょうかねえ・・・(ちょっと自信ない)
それはさておき4人のキャラクターがそれぞれに良くて、すごいこともする
けれど素直で純真で・・・「青春っていいなあ〜」なんて改めて思いました。
でも14歳にしてはちょっとカッコ良すぎ?!のようにも思えましたね。
色々な事件に対するあの子達の反応や行動、態度は理性で行動できる
高校生に近いものがあったように思います。
自分の中学時代や今の子供たちのことを考えると、今では不思議なほど不器用で、でこぼことしていたように思います。
この4人は都会っ子らしくちょっと大人の14歳ですね。それはやはり東京生まれで異才をお持ちの石田さんがそうだったからなのかな〜なんて思います。

『葡萄が目にしみる』は、上のりんごさんへのコメントで書いた読書会のメンバーに頂いた本なんです。
好きになった相手、生徒会の保坂さん・・・付き合っていた女子高の生徒が
妊娠してしまい相手の親から強姦容疑をかけられたんですよね^^;
ちょっと衝撃でした(笑)
林真理子はあの強烈な個性やブランド志向があまり好きではなく読んだ
ことがなかったのですが、読書会のメンバーに「なかなか面白いわよ」
と勧められ、ごそっと本を20冊近く?頂いたのでした。
エッセイがほとんどでしたが、その中で一番好きだったのがこの作品でした。

私も単行本は高いし場所をとるのであまり買いません。
借りる形で頂いちゃったものや中古も多いです^^;
読みたい本はなるべく文庫になってから買うようにしています(我慢しきれずに買ってしまうこともありますが〜)

オクサンもたくさん本を読まれていますね。読書お好きなんですね。
またお勧めの本をどうぞご紹介くださいね (Laugh)

From : さくらこ @ 2006-05-14 17:26:49 編集

Re: 新旧小説味くらべ?!

わぁ、いっぱい紹介してくれたからどれから読んでいいか
わからなくなりました〜。\(^o^)/
私は電車の中でしか読まないので、なかなか進まないんです。
先日Book offでまとめて5冊くらい買っちゃったので
しばらくは買わないですけど、
(前回紹介してくれた)ハラス〜の他4TEENとか葡萄〜とかしろばんばを
読んでみたくなりました。(^^♪
それにしても、私はアトムとお茶の水博士に反応しちゃったんですけど!
(Wink)

From : nacchin @ 2006-05-15 03:22:56 編集

nacchinさん

こんばんは^^

私もその昔通勤電車でよく読書したものです。
横浜のはずれから渋谷まで片道1時間半はかかりましたので
結構たくさん読めました。
つまらない本だとすぐ眠くなっちゃうんだけれど、それがまた気持ちよかったり
して・・・^^;

今回紹介した本もいいけれど、奥田英郎なんかも好きです。
直木賞の『空中ブランコ』、『イン・ザ・プール』の飛んでる精神科医、伊良部
が有名ですが、それ以前に書いた犯罪小説『最悪』『邪魔』も面白いですよ。
どちらも長編ですがばーと読めてしまいました。
娯楽として電車で読むにはいいかもしれません。

アトムとお茶ノ水博士・・・気付きました〜?!
お気に入りのフィギアです♪
本だけだとさみしいかなーと思い、ちょっと出演してもらいました〜 (Wink)

From : さくらこ @ 2006-05-16 01:56:18 編集

Re: 新旧小説味くらべ?!

さくらこさん、ご無沙汰していました。
大好きな本のお話♪
私、恥ずかしながら『4TEEN』は、漫画化されたものを読んだのです。
石田衣良さんの作品は結構読んでいたのですが、
これはまだ原作を読んでいなかったわ。。
ちょっと不思議なあの世界、あらためて文章で読んでみます。
それから『夜のピクニック』!私も好きなんです〜〜。
『図書室の海』の中に『ピクニックの準備』と言う作品があって
そちらを先に読んだのです。
そうしたら、『夜のピクニック』を読むのも待ち遠しくなりました。
すがすがしかったです。
『葡萄が目にしみる』は、私もずいぶん前に読んだのですが
香りとともに印象深く思い出せる素敵なお話でしたよね。
『永遠の出口』はまだ読んでいませんでした。
今度図書館で探してみよう!

それからね、ご報告しようと思っていたのですが、
さくらこさんのブログを読んで、去年の初冬から『沈まぬ太陽』を読んでいたのです。
とてもおもしろかった!けれど、かなり時間がかかってしまいました。
図書館で借りたら文庫版でなくて、出版されたばかりの
山崎豊子全集で、1冊1冊が重かったのが原因…。
結局、クリスマスごろまでゆっくりと楽しんだのだったかな?

最近読んだのは、恩田陸さんの『ネクロポリス』、白石一文さんの『私という運命について』、角田光代さんの『対岸の彼女』、宮部みゆきさんの『弧宿の人』。
今読んでいるのが、朱川湊人さんの『花まんま』です。
いずれも図書館で予約して借りたものなので、発行よりもかなり遅れています〜。
またおもしろい本があったら教えてくださいね♪

From : ととべべ @ 2006-05-17 22:38:35 編集

ととべべさん

ととべべさん、いらっしゃいませ〜、こんにちは!
ととべべさんも本がお好きなのですね♪本の話にコメント頂き嬉しいです。

『4TEEN』、漫画でも出ているのですね。知らなかったです。
それに『夜のピクニック』に前日譚があるなんて、そちらも知りませんでした〜
私の方こそ恥ずかしながら・・です^^;
恩田陸さんは『ユージニア』という作品も読みましたが、こちらは少し
浮き世離れした不思議な話で、またピクニックとは異なった世界でした。
私はピクニックのほうが好きなんです。
今度『ピクニックの準備』も読んでみようと思います。

わあ〜、それから『沈まぬ太陽』、読んでいただいたのですね。
ブログの方の紹介で読んでいただいたなんて、とても嬉しいです。
なが〜い話で読み応えがありましたでしょう?
現実に起こった事故も生々しく描写されていますので、随分と考えさせられました。ちょうど読んでいた頃、事故から20年目ということで、テレビでも特集が
たくさんありましたのでなお更でした。

ととべべさんは図書館を上手に利用されているのですね。
全集で読むなんてなんだか贅沢な感じでいいですね〜、確かにちょっと
重いですがー (Wink)
角田光代さんの『対岸の彼女』は私も読みました。
朱川湊人さんの『花まんま』・・・興味ありです。
他にも面白い本があったらこちらの方こそ教えてくださいね!

From : さくらこ @ 2006-05-19 00:41:59 編集

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