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2008-02-06
日本人のしきたり
過日ご紹介した「女性の品格」は大躍進を続け、年が明けても週間売り上げ上位にランクインしているようです。この本のヒットは今まで中高年男性がメインだった新書市場に、若い世代や女性をたくさん呼び込む結果となったとか。
かく言う私も最近新書コーナーをぶらつくことが多くなったようです。啓蒙書然としてとっつきづらいイメージのあった新書も、読んでみればとても分かりやすく読みやすいものが多いようです。こうして自分の中の垣根が低くなったところで次にトライしたのが、「日本人のしきたり」(朝倉晴武著)です。
しきたり―。若い頃には全く興味のなかったものが、最近俄かに気になりはじめました(笑)。私たちの生活のここかしこにしっかりと根付き、ほとんど無意識状態にその影響を受けている諸々のしきたり・・。人生半ばまできて、こうしたものの意味をここらできちんと知っておきたい・・・そんな気持ちがこの本に手を伸ばさせたのでしょうか。まあ、中年の証とも言える現象なのでしょうね。
さて、この書では細かい項に分けて日本人のしきたりについて書かれています。正月行事、年中行事、結婚、懐妊・出産、祝い事、贈答、手紙、葬式、縁起・・・。それぞれのしきたり、伝統にどのような意味があるのか、そこに込められた古の人の知恵や心が端的に記されています。
正月に玄関前に立てる「門松」は、年神様が降りてくるときの目印であるとか、もともとは女の子のお祭りであった端午の節句が、平安時代の頃に男の子のお祭りに変わったとか、土用の丑の日にウナギを食べる習慣は、江戸時代に蘭学者であった平賀源内がウナギ屋の宣伝策の一環として広めたとか、トリビアではありませんが「へぇ〜〜」と思うことも多かったです。
各項目は短く簡潔に書かれていますから大変読みやすいです。そして全編を通じていくつかのことが読み取れます。まず、日本人のしきたりには独自の自然観や感性が息づいているということです。農耕が主たる生活手段だった日本人は季節の移り変わり、自然現象などから色々なことを予測したり読み取ったりしてきました。その知恵が長い時を経てしきたりとして定着したのでしょうね。
また、しきたりの多くが中国からきたものがベースになっているということにも大いに驚かされます。日本はこんなにも中国の影響を受けたのかと再認識させられました(今も某事件で大騒ぎですが、お手本としてきた国との関係が良好でないということは悲しいことですね)。
そして、日本人の宗教観もしきたりにまた大きく影響しているようです。元々日本は「八百万の神」といって、山川草木、あらゆるものに神を見出してきた「神」を信仰する国です。この日本古来の神道に大陸から伝わった仏教が融合して現在のようなスタイルができたわけですが、考えてみればこれは大変稀有な現象ではないでしょうか。この神も仏も一緒に仲良く尊ぶというスタイルには、日本人の”八百万”の精神が顕著に表れているようにも思います。このように特定の神を持たない日本人ではありますが、しかし宗教的な行動は意外にも多く、それがしきたりの中にも根付いているのがこの本を読むとよく理解できます。
こうした日本人の宗教スタイルは一神教に比べると「軽い」と言えなくもないのですが、身近にあるあらゆるものに神を見出す気質は、ささやかなもの、小さなものにも幸福を見出す精神にも通じ、私はこれをとても素直で素朴、愛らしい美点であると感じるのです。
唯一神に帰依する一神教がともすれば偏向的になり、信仰心が高じて宗教戦争をも引き起こしていることを考えると、この日本人の「あっちも好き、こっちも好き」精神もあながち悪いものではないな・・そんなことをもこの本から感じたのでした。何だかんだ言っても、やはり日本は平和、愛すべき国ですよね!
2008-01-10
女性の品格!
ご存知、2007年度のベストセラーに輝いた本です。話題を呼んだ当初は全く読む気がなかったのですが、著者がTVのトーク番組に出演しているのを見て俄然興味が湧きました。
「品格」を説く著者は経歴、人格共に完璧な人間に違いない―。パーフェクトな人間が説くパーフェクトな女性像なんてつまらないだろうな、とまあそんな思い込みがあって敬遠していたのです。
ところがTVで拝見した著者はその経歴はもちろん完璧そのものでしたが、丸顔で愛嬌のある容姿が示すように、決してサイボーグ人間のような完璧な人ではなく、どこか抜けているところさえあるとても親しみのもてる方だったのです。そしてご自身も「まだまだ努力が必要」とおっしゃる姿から、決して高みから私たちを見ているのではなく、同じ目線に立って「女性の品格」を説いているのだと理解できたのでした。
さてさて、坂東さんが説く女性の品格とは一体どのようなものなのでしょう・・・。それは私が憶測していたような、職業人として、家庭人として社会に恥ずべくところのない高尚な女性などというものでは決してなく、当たり前なことを当たり前にできる普通の女性なのでした。
等々、「うん、そうだよね、そうだよね!」と思うことばかり―。でも自分を含めてこの当たり前なことを実践できている人がどれだけいるでしょうか。私にとっても分かってはいるもののなおざりにしがちなことばかりです。
私は個人的にはこの本が好きです。読んでいると反省と共にまっすぐ背筋が伸びるような清々しい感覚が呼び覚まされてきます。丁寧に暮らしていこうという気持ちが起こります。時々は読み直して、自分の生き方を自戒することを忘れずにいたい・・・そんな本でした。
それにしても何故著者は今、この当たり前なことを声を大にして叫ぶ必要があったのでしょうか。
老若男女を問わず個人の品格を、ひいては社会の品格を揺るがす危機感が今の日本にはあり、この本にはこれから社会を形成していく若い世代、殊に女性に対する筆者の期待や強い願いが込められているように思います。
そしてこの本がベストセラーになったということは、「人間としての、女性としての品格とは何ぞや・・・」と問う人達がそれだけ多くいることでもあります。品格というものが失墜した感の否めない日本社会ではありますが、そんなところに少し救いを見るような気もするのです。
著者が言うように、個人の品格なくして国家の品格など成り立ちません。自分も含めて世の人が今一度、品格ある人間、品格ある生き方というものを見つめ直す時期がきているのではないでしょうか。
2006-08-27
美しき女、二人を紐解く
最近読んだ本をご紹介。全く対照的ではありますが、美しい女性二人の書かれた美に纏わるお話です。
なにゆえ、今さら林真理子か・・。
それはこういうわけ。ある女性雑誌に載っていた彼女の写真がとても美しかったから。
今までもダイエットでやれやせたとか、歯の矯正をしてやれ顔のラインが美しくなったなんてことを聞きかじってはいましたが、全く興味無しでした。彼女が美しいなんて思ったこともありませんでした(すみません・・・)。『金も名声も幸福な家庭も手にした私が、まだ手に入れていないもの。それは「美貌」だけであった・・・』なんてキャッチフレーズ、読んだあかつきには「けっ!」って思ったものですが〜・・・。
某女性誌の美しき真理子さまのお写真を拝見してからというもの、どうしてあんなに綺麗になれたのかしら・・とその美しさの秘密をどうしても知りたくなってしまった私です。
結果分かったこと―それは美しくなるためにはお金と手間と努力がいるということ。手間と努力は別として、お金はねえ・・・。でも彼女のあくなき美への探究心は見習いたい。50代にしてあんなに綺麗な人も珍しいと思うのですよ。年を感じさせませんもの。昔の写真と比べるとその進化は更に顕著です。
この本は林真理子さんのananで連載されていたエッセイを書籍化したものです。美容やダイエットの事が主ですが、恋愛のことや交友ある芸能人のちょっぴり興味深いお話なども披露されていてとても面白い。
なんて、面白い言葉にもたくさん出会えます(真理子ちゃん自筆のイラストもかわゆい)。林真理子のエッセイは面白い!ということを再認識できた本でした。
さて、もうお一方のお美しき女性は―節子・クロソフスカ・ド・ローラ。憧れのお方です。
ポーランドの貴族の流れを組む家柄の伯爵―20世紀のもっとも優れた人物画家のひとりに数えられる画家、バルテュスの夫人です。節子さんご本人も画家ですから、ご夫妻は貴族の称号を持つ芸術家夫婦といえますね。
日本に来日したバルテュスと出会ったのはまだ彼女が上智大学在学中のこと。5年後に結婚。バルテュス59歳、節子20歳の時でした。
『グラン・シャレ 夢の刻(ゆめのとき)』は、バルテュスの終の住処となった、スイスで最も大きな木造建築物グラン・シャレで暮らす節子夫人の夢のような暮らしぶりが、美しい写真とともに綴られています。お着物姿の節子さんのたおやかな美しさ、自然を愛し、和の心を慈しむその美しい暮らしにはため息がこぼれます。
写真を眺めているだけでも楽しいのですが、節子さんの書かれる文章の美しさがまた秀逸です。遠く日本を離れていながら最も日本に近い女性―その雅な文章を読むと日本に生まれた素晴らしさを感じずにはいられません。
林さんも別世界の方なら、この節子夫人はさらに上いく雲上人―。『グラン・シャレ』は異次元の世界を憧れとともに優雅に楽しむ一冊です。
2006-07-28
読書の夏♪
そろそろ長かった梅雨も明けそうな気配です。みなさま、こんにちは。お元気でお過ごしでしょうか。
夏がくると毎年決まって子供のころを思い出します。懐古趣味でしょうか。年なのでしょうか。暑かった昔の夏が何だかとても懐かしいのです。うるさいくらいのセミの声、けだるい午後の昼寝、蚊取り線香の匂い、寝苦しい蚊帳のなかでの就寝・・・・そんなものがひたすら懐かしく愛おしく思える今日この頃です。
さて、夏と言えば「読書」ですね!(秋の夜長もいいが〜^^;)。読書感想文に苦しんだ経験はどなたにもおありではないでしょうか。今はそんな苦しみからも解放されたはずの中年真っ盛りのわたくしではありますが、今度は自分の子供とともに感想文の苦しみを味わうなんてこともしばしば〜・・・(あってはならないことですねえ)。
ともあれ、読書は楽しい。子供に「本、読め!」という前に自分が読んでしまいます。子供達の活字離れが叫ばれて久しいですが、本を読まずに過ごすなんてもったいないですね。本には本にしかない素晴らしい想像の世界があります。つかの間現実から遊離して違う世界を生きる喜びがあります。わが家の子供達もまったく本を読まない種族なのですが、いつかこの楽しい世界を味わえるようになってほしいものです。
さて、本屋さんに足を運ぶと各社キャンペーンが花盛りです。 「Yonda? 新潮文庫の100冊」、「夏の一冊 ナツイチ」(集英社文庫)、「発見。夏の100冊 角川文庫」などなど。
実はサイトのお友達から聞いて知ったのです。店頭にはパンダの帯のついた文庫本が平積みに・・・なんて光景、本屋さんにはちょこちょこ行きますので目にはしていたのですが、あまり意識もなくこんなキャンペーンがあるとは気付かずにきました。
売り上げ促進なのでしょう。読書促進なのでしょう。でも可愛いし何かもらえるというのも嬉しいので、ついつい乗ってしまいます^^; さて、何を買いましょうか?何を読みましょうか? どちらも100冊(?)の対象作品の中から選ばなければなりませんので悩んでしまいますが・・・。こちらを選びました〜
三島由紀夫 『金閣寺』
- 不朽の金字塔といわれる名作。でもまだ読んだことがない。久々に古典的な世界に触れたくなくなって。
乃南アサ 『凍える牙』
- 96年直木賞受賞のベストセラー。読みでがあって面白そうなミステリー。
伊年幸太郎 『ラッシュライフ』
- 若い作家のミステリー作品。「絶望から希望への鮮やかすぎるドンデン返しに瞠目」ですって。面白いかも。
湯元香樹実 『夏の庭』
- ある書店では新潮100冊の売り上げNo,1になってた。児童文学のジャンルになる作品らしい。夏休みを舞台にした少年達の物語。
宇野千代 『行動することが生きることである』
- ご存知宇野千代先生の晩年のエッセイ。超ポジティブな姿勢に憧れて。
槇村さとる・キム・ミョンガン 『あなた、今、幸せ?』
- 漫画家・槇村と人生のパートナーであるキム・ミョンガンが語る幸せの意味。
う〜ん、買いすぎたでしょうか これで当分退屈はしませんね(だといいのですが・・・)。読んで面白かったらまた改めてご紹していこうと思います。
各社、「名作」「現代文学」「海外文学」・・・「感動・泣ける」「笑える・バラエティ」「発見・リラックス」などにジャンル分けされていて選びやすくなっています。私はやはり裏表紙の解説を見て興味のあるもの、面白そうなもの選びますね。みなさまだったらどんな本を選ぶのかな。それぞれの読書ですね!
2006-06-05
週間ブックレビュー
日曜朝8時からの放映、NHK BS−2の 「週間ブックレビュー」 ・・・ ご覧になっている本好きの方も多いのではないでしょうか。
この番組のことはちらほらと耳にしていていつかは見てみたいと思いつつ長いときが流れてしまいました(日曜は仕事のことも多いので・・)。が、先日思い切って録画をして初めて見ました。NHKらしい堅い作りの番組ですが、今年で16年の長寿番組らしく読書欲をそそるなかなか良い番組でした。
番組はまず3人のゲストが登場するコーナーから始まります。様々なジャンルの方が3人登場し、自分の選んだ本を推薦します。それぞれが3冊ずつ挙げますが、そのうち一冊は他のゲストと講評し合う”お勧めの一冊”。ジャーナリスト、翻訳家、映画監督などなど・・・三者三様のゲストがご自身の一読入魂の書をまず書評し、続いて司会者を含めたほかのゲストとその本について論じ合います。肯定的に捉える方が多い中、「文学になっていない云々・・・」などの批判も飛び出したりして、それはそれでまた聞いていて面白いのでした。当たり前なことですが、一冊の本を巡っての読み方、感じ方は人それぞれ異なります。論じ合う本を読んでいないのでよくは分からないのですが、「自分だったらどう感じるのかしら」と思うととても興味深いです。
ゲストのコーナーが終わると次は「特集」です。旬の作家や大物作家へのインタビューから電子本などのジャーナルな話題まで、本を取り巻くビビッドな動きを伝えるコーナーで、毎回一人のゲストが登場します。
私が見た回は福井晴敏さんがゲストとして登場。最新作『Op(オペレーション).ローズダスト』を中心にお話しされていました。福井作品は映画化もされた『亡国のイージス』を以前読んでいましたのでとても興味深く拝見しました。今回の『Op.ローズダスト』は東京臨海副都心を舞台に、テロリストとの攻防を描く1100ページもの超大作。『亡国の・・』も同じテイストの小説でしたね。次回は全く違う構想の作品を考えられているとの福井氏の弁でしたが、彼の作品には国家間の攻防、テロなどがテーマになっているものが多く、またそれを得意とする作家のようでもあります。
思うに作家の方をテレビで拝見する機会は案外と少ないもので、作家の素顔に触れることができるのは大変貴重で面白いことです。福井氏は私の想像とは少し趣を異にする方でした。小さな口元からもちもちと言葉を発し、意外や意外、ぷよっと丸いオタク系・・・そんな印象を受けました〜。作品からくる自分の先入観とは異なる作家を目にし、そのギャップを感じることもまた面白いことですね。
さて最後のコーナーですが、「 ベストセラーレビュー」・・・ 様々な切り口で本に関するランキングを伝えます。今売れ筋の旬の本が一目瞭然、 最新流行を確認することができます。以上三部構成の番組をご紹介しましたが、最後に司会の中江有里さんについて。
新聞の対談などでも目にしていましたが、彼女は大変な読書家だと聞いています。今や脚本家としても活躍、多方面で才能を発揮されている彼女ですが、中江さんの穏やかな司会ぶり、きれいなナレーション、そしてさりげなく挟む意見なども見ていてとても感じがよいのでした。そして中江さんは固定の司会者ですが、他にもう一人メーン司会者がいます(5人の方が週代わりで登場する)。その中に大好きな児玉清さんも〜!児玉さんの爽やかで知的な語り口、名司会ぶりを拝見できることもまた楽しみの一つになりそうです。
さて、番組を見ていて思い出したのは以前参加していた読書会のことです。諸般の事情があって今は休会中なのですが、この会もメンバーが挙げた本をそれぞれが読んできて論じ合うというスタイルをとっていました。
色々と良かったことの多い読書会ですが、その効能の一つとしてはまず自分が普段は読まないジャンルの本を読むことによって興味や視野が広がる、ということが挙げられるでしょうか。飛び交うメンバーの意見も実に様々で、一冊の書から色々な切り口で読み論ずることができるものだと実感しました。そして案外難しいのは、頭で考えている漠然とした意見を形にして述べるということです。私は中々積極的には意見の言えなかったほうなのですが、他の方の意見を掬い取って自分の意見に繋げるという作業は頭をフル回転させなければついていけません。普段こうした機会は案外少ないもので、とてもいい頭の体操になりました(老化防止?!にもなるかもしれませんね)。
「週間ブックレビュー」はそんな読書会のことも思い出させてくれました。いつか会にも復帰したいなと思っています。
最近読んだ本、『白夜行』。肩の凝らない話、ときを忘れて没頭できるミステリーが無性に読みたくなってトライ。途中やや中弛み?そして少しあっけない終わりがちょい物足りない?!でもエンターテイメントとして充分に楽しめた小説。
2006-05-13
新旧小説味くらべ?!
最近二冊の小説を同時進行で読み終えました。井上靖 著 『氷壁』と、石田衣良 著 『4TEEN』。全くスタイルも味も違うこの二つの小説に時代の流れを感じました。
『氷壁』が発表されたのは昭和32年。 登山家である主人公は登山に同行した親友の死に遭遇します。自殺説も流れる中、主人公はあらゆる葛藤と戦いながら親友の死の真相をつきとめようとします。親友の妹や愛していた女性との恋愛模様も絡まり、小説は思わぬ悲劇の終盤へと展開します。
この小説は最近NHKでドラマ化されました。玉木宏、山本太郎、鶴田真由のキャストで舞台は前穂高からK2へと変えられていました。私が『氷壁』を買ったのは昨年秋。そのころ上高地を旅行する予定があり、彼の地が舞台となったこの小説を読んでみようと思ったからでした。その後NHKでドラマになると知ったのですが、まだ本を読んでいませんでしたので、TVの方は敢えて見ませんでした(どうだったのでしょう・・)。
さてもう一方の『4TEEN』は言わずと知れた石田衣良の直木賞受賞作。ドラマ化もされた『池袋ウエストゲートパーク』の作者として有名ですね。『4TEEN』は99年に「小説新潮」に第一作が短編として発表され、その後半年に1本というペースでシリーズとして発表されました。
こちらの舞台は東京湾に浮かぶ人工島、月島。中学2年の同級生4人が繰り広げる物語です。友情、恋、性、暴力、病気、死・・・。それらを巡って成長していく14歳の少年像がとても軽いタッチとテンポで爽やかに描かれています。
この二つの小説を同時進行で読んでまず感じたことは、「文、文体、文章というものは生きている」ということでした。『氷壁』から『4TEEN』へ・・・確実に文章は進化(と言っていいのでしょうか?変化の方が適切かもしれません)しています。こんなにも変わるものかと思わせられました。私は古い時代の小説も好きですしどちらがいいというのでもありませんが、今の時代には今の文章があるなと感じました。
『4TEEN』には今の時代への共感があります。冒頭から飛び出す「マクドナルド」―。そして「ママチャリ」「コギャル」「サンクス」などなど時代を映す言葉や固有名詞がぽんぽんと飛び出します。登場するのは拒食症の少女やちょっとクラスで浮いている少年、ゲイの少年だったりします。題材も家庭内暴力や家出など今の時代を反映する問題ばかり。このように題材はとても深刻なのですが、描き方はシリアスではなくてむしろとても爽やかです。現実はどうなのか・・なんてことが頭に浮かぶのも事実ですが、涼やかな風が吹き抜けるようなこの小説はちょっぴりほろ苦く、ちょっぴり甘く、心にキュンときてなんだか心地良い・・・。
ちなみにうちの次男も14歳・・・。この小説はついつい親の目で読んでしまいがちで、そんな思わぬ弊害もありました(本当に14歳はこんなにススンデル?!と半信半疑^^;)。本当は14歳の自分に戻って読んでみたかったですね。その方がずっと面白かったと思います(時代が確実に違いますが〜^^;)。
話は飛びますが、青春小説と言えるもので他に印象に残っているのは恩田 陸の『夜のピクニック』です。たった一夜の夜行祭に高校生活のすべてが凝縮されています。第二回本屋さん大賞を受賞した作品として人気の高い作品です。
そして大分前に読んだものですが、森絵都の『永遠の出口』も良かったです。児童文学を手がける森が始めて書いた大人向けの小説で、小学4年生から高校3年生までの9年間の出来事とその成長の軌跡を連作風に描いたものです。小説家としての作者の力量が改めて認められた作品でした。
最後にもう一つあげたいのが林 真理子の『葡萄が目にしみる』―。素朴で多感、ちょっとでこぼことした不恰好な内面を持つ少女の成長が、目にしみる四季のうつろいを背景に鮮やかに描かれています。林の分身?!なんてことを思わせる主人公がとても魅力的でした。どちらも自分の過ぎ去った青春の記憶と重なって、ノステルジックな気分にさせられる大好きな作品です。
最後に井上作品について少し。『氷壁』は山岳小説としても、恋愛小説としても、ミステリーとしても少し中途半端な感じがしたのですが、如何なものでしょうか。私は井上作品では今回の『氷壁』より『しろばんば』の方が断然好きです。
『しろばんば』は両親もあり弟妹もありながら、一人両親の許を離れて血の繋がらぬ祖母(曽祖父の妾)に育てられたという特殊な境遇にあった井上の自伝小説ですが、伊豆の豊かな自然を背景に少年の心の機微が描写され、長編であるにもかかわらずまったく飽きさせることがありません。今では国語の入試問題などにも使われたりして古典の域に達したかと思わせる『しろばんば』ですが、大正時代の山村生活の薫り高い、味わい深い文章が秀逸で、私の大好きな作品のひとつです。
2006-04-26
「ハラス」とその後
4月9日の日記 で紹介した本、『ハラスのいた日々』『犬のいる暮し』を先日読み終えましたのでご紹介。
まずタイトルに惹かれます。「いた」と過去形になっているところにすでにある種の感慨を覚えます。そして特筆すべきはその写真の多さです。ざっと数えて60枚以上はあるでしょうか、そのそれぞれに短い文で解説がつけられています。
「花の香をかぐハラス」・・「ハラスのお得意のポーズ」・・「庭はまさにハラスの領地だった」・・「冬枯れの庭で野鳥を見つめるハラス」・・「ハラスはこの椅子をずっと愛用した」・・「その仕草のひとつひとつが愛しかった」・・・といった具合。その写真を見ているとひとつひとつから作者のハラスに対する愛情がひしひしと伝わってくるようです。
また愛犬との暮しにとどまらず、人と犬とが暮らすことの意味や犬とどう向き合っていくべきかなどが客観的な目で淡々と綴られています。そしてその言及は時として痛烈なほど。それは心無い飼い主や、洋犬ブームのような流行を追う風潮に対する批判となって現れます。
作者は2004年に永眠されていますが、亡くなるまでに飼った4代の犬はすべて柴犬。柴犬以外と暮らすことはハラスを裏切るようだからという理由が第一のようですが、先の洋犬ブームに対する批判精神にもこの柴犬に固執したわけがあるようです。そんなところに作者の偏屈さを感じないわけではありませんが、この本全編に綴られるハラスに対する愛情は本当に胸を打つものがあります。
「尻尾を振りに振って犬が全身でぶつかってくる。人もまた誰はばかることなく思う存分愛情を振り注いでやる。これこそ生を実感する時ではないか。」・・・そんな言葉の数々は多くの愛犬家の声を代弁したものに違いありません。
大学教授、そして作家としてもたくさんの著書を持つ作者、中野孝次―。過去にテレビ出演したところを2回ほど目撃した人の話にはとても興味深いものがあります。
ひとつは大岡昇平との対談で作者は大岡から戦争体験を聞き出す役をしていたそうですが、このときの中野はかなり緊張していたのか、番組が終わるまでにこりともしなかったそうです。大岡が不意に言葉を詰まらせ涙声になった際にも格別動揺した様子も見せず、大岡の顔をむしろ険しい表情でじっと正面から見つめていたといいます。もう一つの番組は、高校生を自宅に派遣して中野に自作について語らせるというものだったそうですが、彼はやはり笑顔を全く見せず、番組が終わるまで硬い表情を終始崩さなかったそうです。
神経質で気難しいところは写真に写る作者の顔にもよく出ているのですが、そんな作者だからこそこのハラスの記がかえって生き生きと輝くように思います。愛犬に対するあふれんばかりの愛情はこの作者にして・・・という意外性があり、また失踪時の腰も抜かさんばかりの動揺振りなどは読んでいて痛々しいほど。
この本はハラスが志賀高原で行方不明になった4日間の騒動記が中心です。そして彼が近所の紀州犬に腹を食い破られるという悲話、またガンにかかったハラスが死を迎えるまでの臨終記などいくつかのエピソードも紹介されます。特に失踪の騒動記には多くのページが割かれ手に汗握るほどの緊迫感があります。まさに奇跡の生還ともいえるこのエピソードはきっと動物たちと暮らすたくさんの人を感動させることでしょう(ルチノちゃんに家出された私は特に身につまされました・・・)。
一方、『犬のいる暮し』は『ハラスのいた日々』から15年の歳月を経て書かれたものです。ハラスの死後5年たって再び犬とともに生きる喜びを得た作者が、人間と犬とのかけがえのない絆を語り尽くします。またこの本はハラス以降の4代の柴犬のことを中心にして、「なぜひとは犬と暮らしたがるのか」という命題を解き明かすための書ともいえます。またひとが老いるということの意味やその心境が切々と綴られており、これから歩むであろう道についても私たちにしみじみと考えさせます。
この本を書いた5年後に永眠された中野孝次さん。『犬と暮す』は作者の「人生まとめの記」ともいえる本だと思います。
すっかり長くなってしまいましたが、動物と暮らす人にとってこの本は読むにとても良い本だと思いました。また人生の晩年にさしかかった先達としての言葉の数々は真に感慨深く、胸に落ちるものがあります。そんな面からも一読の価値ありの書だと思います。
2006-03-23
動物のお医者さん
「ぴっぴら帳」に引き続き、またまた動物漫画をご紹介!
「動物のお医者さん」 白泉社文庫 全8巻
こちらはドラマ化もされているのでご存知の方が多いでしょうね。 私はどうも流行に疎くって大分経ってから知る・・・なんてことが多いのです^^; この漫画がブレイクした時にもシベリアン・ハスキーブームがあったそうなんですが、そんなことはつゆも知らず、「なんかドラマであったなあ・・動物もので面白そう・・」なんて軽い気持ちで手に取ったのでした〜。
こちらはたくさーんの動物たちが登場します。舞台はとある大学の獣医学部(モデルは北大)。お医者さんの卵たちがさまざまな苦労を重ねながら獣医師の資格を取り、やがて社会に巣立っていくまでの過程が描かれています。
この漫画のブレイクで獣医学部志望の学生が急増したとか・・・そんな社会現象も巻き起こした異色の動物漫画です。
ちなみに鳥さんは残念ながらあまり登場しません。ですが第78話(6巻)にセキセイインコがリアルに登場!これ、笑えます。
主人公宅で預かったインコ・・・肩に乗せようと手を出すと予想に反してビクビクしたり、がぶっと噛んだり・・。そうかと思うと自己主張もすごい!ガシッとケージの前面にはりついてギャーギャー鳴いたり、ガツガツえさを食ったり・・。インコがとってもリアルに描かれていて面白い。インコの吐き戻しにまつわる話なんて失笑もの!「ぴっぴらさん」とは全くタッチの異なる鳥のお話・・・こちらもかなりイケマスよ
2006-03-22
ぴっぴらさん
昨日に続き、わが家からの春便り・・・お庭に咲く紅梅です。 ぷっくりとした蕾から5枚の花びらを愛らしく開かせました。お庭の片隅で控えめに春の到来を告げています。
さてさて、今日は「ぴっぴらさん」というインコが登場する漫画をご紹介したいと思います。この漫画、白ハルクインセキセイのぴっぴらさんほか、ジャンボセキセイのジャンボくん、カナリヤのかな子さんなど鳥さんがた〜くさん登場。鳥好きにはたまりませんよ^^
いのうえ食堂の看板娘、キミちゃんはある日道でセキセイインコを拾います。自分を「ぴっぴらちゃん」と言うインコ。そんなまったりインコ「ぴっぴらさん」とキミ子のほのぼのとした日常がほんわかムードの絵とともに描かれます。
それではぴっぴらさんの生態をちょっとご紹介しましょう。 ・ぴっぴらさんはキミ子の頭に乗るのが大好き・・そして困った落し物をする・・・。
・ぴっぴらさんは暑いときには羽を半開き・・・(キミ子の家には冷房がな〜い)。
・ぴっぴらさんはおもちゃに逆さにぶる下がり、ぶちゃいくに遊ぶ・・・。
・ぴっぴらさんはココアのカップに次々と物をいれちゃう・・・。
・ぴっぴらさんは眠る時「ちょりちょり・・・」という歯軋りの音をさせる・・・。
・ぴっぴらさんはかきかきすると、首をもげるほどにかしげる・・・。
インコ飼いの方なら「あー、そうそう!!」と思うことばかり。作者、こうの史代さんはインコのことをよーくご存知なのでしょうね。
こうのさん自身もある夏、道でセキセイインコを拾います。不注意から数日で逃がしてしまったそうですが、楽しかった日々が忘れられずその秋一羽のヒナを買いました。インコと暮らすシアワセを誰かに伝えたくて筆を執ったというこうのさん、このお話にはそんな作者の温かい眼差しが全編にキラキラとちりばめられています。『宝物のような毎日は 突然ひょいと訪れたりします』・・・という冒頭のメッセージもいいですね。
「ぴっぴら帳」はリンク先のととべべさんのブログ 「ココの日々」 で紹介されていたのを拝見しての購入でしたが、それ以前にひとつこうの作品を読んでいましたので、最後にこちらもご紹介。
こちらの作品は「ぴっぴら帳」のほのぼのタッチとは一変。こうのさんはこの作品で、第9回手塚治虫文化賞新生賞及び第8回メディア芸術祭大賞をダブル受賞。
広島出身・・・けれども1968年生まれとまだ若いこうのさん。この物語は”ヒロシマ”を知らないそんな作者が使命感を持って描いた反戦の物語です。
舞台は戦禍のすさまじいヒロシマの街から、復興を遂げた現代広島へ・・・。時代、世代を超えてもなおも断ち切れぬ戦争の傷跡が、決して押し付けがましくなくむしろ静かな語り口で淡々と描かれています。読後感動とも悲しみとも分からないじ〜んとした感情で胸がいっぱいになり、いつまでも心に残る作品です。
最後におまけ^^こうのさんの趣味をプロフィールからご紹介! 「カナリヤの”たまのを”を腕に乗せて、夕焼けを見せてやること・・・」ですって!
なんか、いいですねえ〜〜
今年度手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した石川雅之さんの作品です。
菌やウィルスを肉眼で見ることができ、会話もできるという特殊能力を持った主人公の青年の右往左往が、某農業大学を舞台に繰り広げられる異色の学園漫画です。
作品には多くの細菌がとても可愛くデフォルメされて登場します。馴染みの深い白癬菌(水虫)をはじめ、P.アクネス(にきびを作る菌)、M.フルフル(フケの一因)なんて、聞きなれないけれど身近にある菌たちが多々登場し、ちょっぴりお勉強にもなったりします。
実は我が家の長男はこの春から農業系の大学に通う農大生。日々興味深い話を聞かせてもらっています。この間あったテストなんて、20種以上もあるニワトリの鳴き声の聞き分けなんだとか(毎年全問正解する学生はいない難問だそうです)。小耳に挟む話から知る学生生活は、ばりばり文系だったわたしの学生時代とはずいぶん趣を異にする様子。その一端でも知ることができれば〜との母心・・・というよりは単なる覗き見的好奇心でこの漫画を手に取ったのですが〜・・。
結果、う〜ん、中々面白いぞ、農業大学!ちょっと息子を応援したくなりました(そしてちょっと羨ましい感じもしたりして)。この漫画のヒットで、農大を志望する学生も増えたとか。農大生の母としては嬉しい限りです。
ちなみに息子の大学の売店には「コンパニオン・バード」誌も売っているとかっ!これにはちょっとびっくりです(笑)。流石に牛、豚、馬、鶏、エミュー、孔雀などたくさんの動物を抱える大学です。我がコンパニオンバードもしっかりとその範疇に入っているようですね。何だか笑えたり感動したりの農大生の母なのでした