こざくら日和 : 心の風景 vol. 2

2007-03-07

心の風景 vol. 2

ポスト @ 16:51:48 | 01.全て,04.日々の徒然

桜の開花ももうすぐ。そんな今日この頃。

通勤途上にあったその会社は、解体業を営む小さな会社だった。

こじんまりとした敷地には、事務所とおぼしき小さなプレハブと数台の重機。

そして片隅には三つの犬小屋があった。

その住人は黒、白、茶の三頭の大型犬。


犬小屋に繋がれた犬たちはいつも所在なさ気だったが、社員達の姿を見ると千切れんばかりに尾を振り、身体一杯に喜びを表わした。

お皿一杯に盛られた朝食をいそいそと運ぶ社員たち。前脚を跳ね上げて狂喜乱舞して迎える犬たちの笑顔。

信号待ちの数分―そんな朝の風景を見るのがいつしか私の楽しみになっていた。

そこに流れる温かな空気が私の心に小さな灯をともした。

私はちょっぴりのシアワセをもらって仕事場へと向かうのだった。

そんな朝の風景に異変が起きたのは昨年暮れのことだった。

会社の門扉が開かない!一昨日も、昨日も、今日も―。

お休みかしら?
平日なのに?
こんなかきい入れ時に・・・?

そんな日が数日続いた。小さな不安が私の心にぽっちりと黒いシミを作った。

そうして2006年は幕を閉じ、新しい年が明けた。


寒さ厳しい冬のある朝、その会社の門扉が開けられていた。

ドキンと高鳴る胸!

でもがらんとした敷地に残されていたのは三頭の犬たちだけだった。

じっと佇む犬たち。その目が人間の姿を捉えるのをじっと待っているような、そんな寂しげな姿だった。

やがて犬たちの姿も見えなくなった。

ぽつんと残された犬小屋・・・いつしかそれも跡形なく消え去った。

更地を吹き抜ける冬の風が、砂埃を舞い上げた。


いつしか季節は春へと変わったが、毎朝その会社に目を向ける私の日常は変わらない。

あの会社の従業員達はどうしているのだろう・・・。
そして、あの三頭の犬たちは―。

きっと誰かに引き取られているに違いない―。自分にそう言いきかせた。

毎朝私に小さなシアワセと元気をもたらしてくれた朝の光景―。

今、そこを通るたびに私の胸はチクッと小さな痛みを感じるのである。

★   ☆   ★

久しぶりの更新となりました。 皆さま、お元気でしょうか。私は変わらず元気に過ごしております。

私にとっては小さな日常のひとコマであるはずの、ある会社の倒産―(当事者には大変なことです、ごめんなさい)ただ傍らを行き過ぎるだけの通行人に過ぎない私の胸に、何故だかやり切れない悲しみが宿ります。

餌の入ったお皿を腰を曲げていそいそと運ぶ従業員さんの優しい姿。とんで跳ねて喜ぶ犬たち・・・。そこには小市民的な、小さな幸せがありました。私はそんな光景を愛していたんだなあ〜(大袈裟ですか?)と、今つくづく感じています。

大きな災い、不幸に見舞われることもなく、つつがなく過ごす日常・・・その有難みが本当に分かるのは、大変な経験をされた方たちなのかもしれません。社長と思われる初老の男性が、犬たちだけが残った敷地の片隅にぽつんと立っていた姿も目に焼きついていて、それを思い出すたびに心はざわざわと波立ってきます。

どうか、皆さま、ご無事でありますように!(そして三頭の犬たちも!)

さてさて、暖冬と騒がれたこの冬も終わりを告げ、暦も変わって名実ともに春の到来となりました。受験生を二人抱える我が家ですが、長男の方は残念ながら浪人決定!・・という結果になってしまいました。

「どこか、一つくらいひっかかってくれるのでは・・・」―という甘い考えの前に厳しい現実がど〜んと立ち塞がりました。努力が足りなかったという一言に尽きるでしょう。

そんなこんなで、私のココロにはまた別の嵐が吹き荒れているのですが(笑)、「浪人するのはあなた、私じゃない」とばかりに、表面上は涼しく、平然とした顔を保っています。私は私なりのペースでこの一年を過ごしていきたいと思っています。

皆さまには、温かい励ましのお言葉をいただいたのですが(ありがとうございました!)、我が家に春がやって来るのは、まだまだ大分先のことになりそうです。

トラックバック

トラックバックはありません

貴方のサイトからトラッキングしてください

http://kozakura.orche.net/trackback/tb.php?id=248
(言及リンクのないトラックバックは無視されます)

コメント(10件)

Re: 心の風景 vol. 2

さくらこさん、お久しぶりですね。
しばらく更新していなかったので、どうしているかな〜と思っていました。
でも、ダブル受験で忙しいのだとは察していましたが〜
そうですか、長男くん、残念でしたね。
本人が一番ショックでしょうけど、これをバネにまた頑張ってもらいたいですね。陰ながら、応援しています!

冒頭のお話し、ジ〜んとしてしまいました。
私も1会社員、会社が倒産したら私の生活はどうなるのだろうか?と人事ではない気持ちで読んでいました。
そして、3頭のワンコたち・・・・
大型犬となると3頭すべて引き取るにはかなり恵まれた環境に
いる人でないとなかなかできないことだからバラバラになってしまうかもしれませんね。
でもでも、別々になったとしてもそれぞれ幸せに生きてくれればそれだけでいいですよね。
従業員の方々、3頭のワンコたちが今平和に過ごしていますように!

From : nacchin @ 2007-03-08 10:52:30 編集

Re: 心の風景 vol. 2

お久しぶりです。
私も忙しくてPCとはすっかりご無沙汰してました。

ワンちゃん達のこと、気になりますね。
私が小さい頃は、解体屋とか、材木屋さんとかの敷地には必ずワンコがつながれていました。
3匹とも元気に過ごしているといいですね。

長男さんは残念でした。
ルチノちゃん達の応援が足りなかったのかな?
それとも難関大学だったのかな?

うちのおねえちゃんもいよいよ試験日が迫ってきて、最後のあがき状態の毎日です。
「おかあさんも何か勉強しなよ」って言うので
私もちょっとだけ勉強を始めました。
・・・だけどねぇ、私はすぐに眠くなってしまうのです。

From : オクサン @ 2007-03-08 12:12:13 編集

Re: 心の風景 vol. 2

ごぶさたしておりました。
ご長男さん残念でしたね。
さくらこさんやご家族の温かさで、乗り切って
来年は晴れ晴れとした桜が咲くことをお祈りしています。
ルチノちゃん、さくらちゃんも心を癒してくれるはず。

3頭の犬たちは、会社の倒産なんて意味がわからず
環境の変化にさぞかし不安だったでしょうね。
今頃、どこかで幸せに暮らしているといいですね。

From : よこぷん @ 2007-03-09 15:37:09 編集

nacchin さん

nacchinさん、すっかりご無沙汰しました〜。
コメントをどうもありがとーうm(_ _)m

受験するのは親ではないので、忙しいということもなかった
のですが、何だか精神的にぱたぱたと気忙しい日々を過ごして
いました。
親の目から見ても圧倒的に勉強不足の長男ですから、これは
当然の結果だとも感じています。
お金と時間は余分にかかり痛い出費ですが、深く反省している
本人の様子を見ると、これも良かったのかも・・・ナンテ、
チラッと思ったりする昨今です。
あとはこの気持ちが一年持つといいのですがね〜。
応援のお言葉、本当にありがとう〜〜\(^O^)/~

冒頭の私の独り言・・・読んで頂いてありがとうございます。
ここにこの会社があったこと、そしてなくなったこと・・・
誰も気付かないことかしれません。
でも気にかけているものが(ヘンなヤツとも言えますね^^;)
いることを知ってもらいたいと、勝手に文章にしてしまいました。

社員さんのその後、犬たちのその後・・・毎朝通るたびに
気になってしまいます。
本当にどうぞご無事でありますように・・・そう祈りたい
気持ちなのです。

From : さくらこ @ 2007-03-09 18:00:58 編集

オクサン

オクサン、こんにちは。
何だかPCいじる気になれない時期というのもありますね。
今は一段落して精神的にも落ち着いたのかな、またぼちぼち
更新していけたらと思っています。

私はちょっとヘンなヤツなのかもしれませんが、運転中に
きょろきょろと街ウォッチングするのが好きなの。
ですから、ここにこんな犬が居る、とか、ここにはこんな
素敵な家がある、とか、見て楽しんだりしています。
この会社の朝の光景も、そんな私の楽しみの一つだったの。
ですからとても残念だし心配です。
「三頭の犬が、誰かに引き取られて幸せに暮らしてくれていれば
いいな〜」と思うことが、今は私の毎朝の恒例行事となっています^_^;)

長男のこと、温かいお言葉をありがとう〜!
お恥ずかしながら難関大学ってわけじゃあないの。
でも、こんな悲惨な結果になってしまいました(TT)
ルチノちゃんは、これまたマイペースで、全く応援はしていなかったみたい(笑)。
他力本願的なところのある長男ですが、これをばねにして
自分の力で立ち上がってもらいたいものです。
来年良い報告ができるといいのですが〜(あまり期待しないで
くださいね)。

ところで、オクサンの勉強ってなにかしら♪
ちょっと気になる私です^^

From : さくらこ @ 2007-03-09 18:22:20 編集

よこぷんさん

よこぷんさん、ご無沙汰しました。
また遊びにいらしてくださってありがとうございます!

このHPでよい報告ができればよかったのですが、力不足で
こんな結果となってしまいました。
今は予備校探しに一生懸命の長男です。
受験生の親というものを初めて経験しましたが、受験するだけでかなりの出費で、驚きの連続です。
予備校となるとこれまたかなりの痛手です。
そんなこんなで、長男につけるお薬はかなり高額になって
しまいましたーー;)
まったくやるかたないです・・・。
このお薬が本当に効いてくれて、本人のためになってくれることをただただ祈るのみですねぇ。

冒頭のお話にお付き合いくださり、ありがとう。
会社がどんどん撤去されていき、犬たちだけが残った時は
かなりショックでした。
やがて彼らも居なくなり、犬小屋もきれいさっぱりなくなってしまいまいした。何だかわけもなく寂しかったです。
社員さんの誰かが引き取ってくれていて、安泰に暮らしていると信じています。

From : さくらこ @ 2007-03-09 18:39:18 編集

Re: 心の風景 vol. 2

さくらこさん、こんばんは!!
どうされてるかなぁと気になってました
お元気そうでよかったです
息子さん、でもよくがんばりましたよね!!
来年の春はきっと、笑顔で迎えられるといいなと
思います
会社のお話・・・なんか、なんとも切なくなりました
現実、多いですよね 倒産・・
うちの父の会社がつい最近倒産しましてね・・
幸い父は退職した後だったのですが、いまだに父が
「急に無償に会社の跡地をみたくなる」とそこに足を
運ぶ気持ちが、さくらこさんのこの文章よんで
切なくわかるような気がしました
犬たちも、きっと社員さんたちのどなたかに
ひきとられ幸せに暮らしていると信じます

From : ekoeko @ 2007-03-09 23:59:43 編集

ekoekoさん

ekoekoさん、こんにちは!
すっかりご無沙汰してしまいました。

息子はいたく反省の様子・・・でも、気持ちを一年持続させる
のは大変なことです。
くじけずに初志貫徹してくれればいいのですが〜・・・。
色々と心配は尽きませんが、親としては信じて見守るしか
なさそうですね。

さて、倒産ですが、この頃は景気も回復しつつあると言われて
いますが、まだまだ多いのですね。
ekoekoさんのお父様の会社もですか・・・きっとお父様は心を
痛めていることでしょう。
跡地を見に行かれるお気持ち、よく分かります。
私が結婚前に勤めていた生保の会社も、倒産ではありませんが
外資系の会社に吸収されてしまいまして、社名も儚く消えて
しまいました。
その際退職した社員も多く、私の同期のほとんども辞めてしまった
と聞きます。何とも悲しい限りです。

この会社の犬たちは社員さんに可愛がられていましたので、きっと今でも幸せに暮らしていると信じたいです。

From : さくらこ @ 2007-03-12 18:59:19 編集

Re: 心の風景 vol. 2

さくらこさん。ご無沙汰です。♪

確かに普通に何も無く生きている時は、それが幸せだということに気付かないですよね。
自分は、病気になって初めて普通に生活出来ることの大切さを知ると共に、日々自分の
周りで起こっていることに無関心、無感動で、時に流されて生きていることが異常な
ことであることも学びました。さくらこさんのように日常の小さな出来事に対して
心を動かされることは、とても大切で人として正常なことと思います。

From : トモヒロ @ 2007-03-14 21:58:45 編集

トモヒロさん

トモヒロさん、コメントありがとうございます。

人生で栄光を極める人は、その分浮き沈みが多いように
思います。所謂、波乱万丈な人生ですね。
反面、平凡な人生を歩む人は、そういうことがない分大きな
不幸もないのでしょう。
どちらがいいかな・・・時々そんなことを考えたりします。
勇気とパワーに欠ける私は生まれ変わっても、後者を選ぶと
思います。
淡々とした毎日、日常の中に埋もれているささやかな幸せを
掬い取って、心を温めることのできる人間になれたら嬉しい
です。
そういう感性があれば、平凡な人生もきっと心豊かに送れる
ことでしょう。
トモヒロさんを始め、多くのブロガーの方々の感性に触れ、
大いに触発されている私です。

From : さくらこ @ 2007-03-16 18:24:26 編集

コメントを以下からお願いします



(Smile) (Wink) (Laugh) (Foot in mouth) (Frown) (Gasp) (Cool) (Tongue)

*は入力必須です。E-Mailは公開されません。