こざくら日和 : 巨大企業の実態に迫る!

2005-11-26

巨大企業の実態に迫る!

ポスト @ 15:07:28 | 01.全て,05.読書の小部屋

読書が好きです。 一人の作家を読破したり、ジャンルにこだわったり、深く研究したり・・・などストイックな読み方はせずに、自由気ままに好きなものを読んでいます。

集中して読むこともあれば、まったく読まない日々もあったりします。 いまは・・・あまり読んでいません。なぜならこのHPにはまってしまって、時間が取れなくなってしまったからです。

そんなこんなでご紹介できる本がありませんが、今日は少し前に読んだ本のことを書いてみたいと思います。

『沈まぬ太陽』  山崎豊子著 (新潮文庫) (一) アフリカ篇・上     (二) アフリカ篇・下 (三) 御巣鷹山篇 (四) 会長室篇・上 (五) 会長室篇・下

1 読むきっかけ

少し前にテレビで放映されていた「女系家族」を観て、山崎作品が読みたくなりました。若い頃に読んだ『白い巨塔』がとても面白くてインパクトがあったからです。

2  内 容

主人公 恩地 元は最高学府T大を出、将来を嘱望されたエリートとして国民航空(架空名称)に入社。学生時代の運動家としての実績とその優秀さから、労働組合委員長に抜擢されます。「迷える組合員」のため職務を全うする恩地は、やがて「輝ける委員長」としての地位を確立しますが、その反面会社からは「アカ」のレッテルを貼られ、パキスタン、イラン、ケニアへと、内規を無視した差別人事による「流刑」に甘んじることになります。その歳月は10年にも及びました。 その間会社は一部の幹部が職権を濫用して甘い汁を吸い、不正と乱脈のはびこる「魑魅魍魎」(ちみもうりょう)と化していたのでした。

そんな折、ついに「その日」が訪れます。航空史上最大のジャンボ機墜落事故、犠牲者は520名・・・。「遺族お世話係」を命じられた恩地は、想像を絶する悲劇に直面します。

一方、政府は利潤追求を第一とした経営にメスを入れるべく、組合問題に実績のある某紡績会社社長、 国見の新会長就任を要請。恩地は国見に請われて新設された会長室部長に抜擢されます。 次第に白日の下にさらされる巨大企業の腐敗の構造・・・。会長国見と恩地のひるまぬ戦いは続きますが、政、財、官が癒着する利権の闇はあまりに深く、巧妙に張りめぐられていて、その戦いは終わりなき暗闇の始まりでしかありませんでした。

3  感 想

一冊500ページ近い文庫が5冊・・・と長いものであるにもかかわらず、厭きさせずに読ませますので、苦になることはありません。

まず驚くべきことは作者、山崎豊子の取材力のすごさです。 「この作品は多数の関係者を取材したもので、登場人物、各機関、組織なども事実に基き、小説的に再構築したもの」と作者は冒頭に記しています。計り知れないほどたくさんの時間をかけて、数え切れないくらいのたくさんの人に会って・・・とそうした苦労を重ねて成り立った作品だと思うのです。この作者にはこうした作品が多いことから、”大量消費型のような「量産」はできない作家”だなあ・・・と改めて感じました。

5冊中私が最も惹きつけられたのは、「御巣鷹山篇」です。凄惨な事故の記憶が胸苦しいほど鮮やかに蘇ってきます。

今年は御巣鷹山事故から20年の節目の年でした。8月12日にはテレビで何本かの特番が組まれました。私もそれを見ていましたので、「定年後も独自の調査を行っている元機長とは、本の中に出てくるあの人かしら・・・」などと興味深く読むことができました。 また、『墜落遺体』<飯塚 訓・講談社>(520人の全遺体の身元確認までの127日を、最前線で捜査に当たった責任者が切々と語った記録)いう本も以前に読んでいましたので、それとも重なり合って、事故を色々な角度から考えることができました。

ご遺族は実名で登場する方も多く、そのことにより一層の臨場感を得ているように思います。どのご遺族も言葉の掛けようもないほどお気の毒なのですが、特に、親もすでに他界されていて、この事故で一人息子と孫を失って天涯孤独になられた元教師の方の姿が一番心に残っています。多額の補償も拒否されて(この事故で親を失った子供の遺族基金に当てて欲しい・・と言われたそうです)一人四国お遍路の旅に出られたその孤独を思うとやりきれません。

改めて事故とは、犠牲者とその家族にとって、その時だけのものではなく、ながいながいときを経てもなお解決することのできない悲しく、残酷なものであるのだな・・・と感じました。

ちなみに夫もこの本を読んだのですが、一番良かったのは「アフリカ篇」とのこと。

アフリカの広大なサバンナでの猟・・・ケニアの実情と現地での生活・・・支店とは名ばかりで机さえなかった営業所の実態・・・家族と引き裂かれたことによる孤独感・・・”アフリカの女王”として君臨する日本人女性の存在・・・などなど私などには想像すらつかない、このケニアでの生活を記した「アフリカ篇」は、確かに惹きつけられるものが大いにあります。

人それぞれ感じ方も読み方も違います。当たり前なようですがそのことを改めて感じ、だからこそ面白いのだなあ・・・と思いました。

そして最後に・・名門企業と思っていたこの会社の実態を知り、空恐ろしく、暗澹たる思いでいっぱいです。夫に言わせれば、「大企業とはみなこんなもの・・・」だそうですが。この会社の飛行機に乗るのがちょっと恐ろしくなった・・・という事実も付け加えておきましょう・・・。

4  追 記

ところで、読後面白い事実に私は出会いました。主人公 恩地には実在するモデルとなった方がいます。作家・山崎はその方に会いにはるばるケニアの地まで足を運んでいますが、なんとわたしの母と「恩地」ことOさんが以前に書簡のやり取りをしたことがあるというのです。

母は短歌をやっていてある結社に属しているのですが、その中にOさんのいとこに当たる方がいらっしゃったのです。そんなご縁でアフリカでお撮りになった野生動物の写真集をOさんから送っていただいたのでした(Oさんは定年後、アフリカ研究家、写真家としてもご活躍されています)。そして母がお礼状を出して・・・とそんな事情で何回かお手紙のやり取りをしたそうです。

いとこの知り合い・・・というだけのご縁なのに、写真集やお手紙を送ってくださった(それもすぐに送ってくださったとのこと)Oさんは、なんて義理堅く、礼儀正しい方だろう、と感動しました。

まっすぐに進んでいれば必ずや高い地位にまでのぼりつめたに違いないOさん・・・。しかし運命の女神はいつまでも彼に微笑みかけることはありませんでした。結局Oさんは遥けきアフリカの地で定年を迎えます(この作品の最後も恩地が再びアフリカに向かうところで終わります)。 しかしその後アフリカ研究家として名を馳せ、多くの著書、写真集を出されたことを思うと、この運命も彼にとっては悪いものではなかったのかもしれません(結果的にですが)。 押さえつけられても、押さえつけられてもなお、特異な才気が輝きを放つ・・・。きっと小さな器には収まりきれなかった方なのですね。そんなことも感じさせられた作品でした。

(Oさんは数年前に亡くなられています。その葬儀には大勢の弔問客があったそうです)

♪      ♪      ♪      ♪      ♪

ずいぶんと長くて、取り留めのないものになってしまいました。作品が長編だったため・・・ということでお許しくださいませ。 最後までお付き合いくださった方、ありがとうございました! 次回からはもっと簡潔にまとめる努力をしますね。

・『沈まぬ太陽』 全5冊と 『墜落遺体』

・定年後に出版された写真集 『アフリカの風』

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