こざくら日和 : 過去ログ : 2006-03-10

2006-03-10

『チョッちゃん』

ポスト @ 18:13:05 | 01.全て,05.読書の小部屋

今日は近くの大病院に行きました。

2月に受けた人間ドッグに引っかかってしまい、再検査の紹介状が出てしまったからです。「何ともないに決まっている・・・」そう思いつつもドキドキしながら病院に行きました。紹介状があるとはいえ大病院ですので、予約もなしではどれくらい待たされるか分かりません。少し前に購入していていまだ読んでいなかった 『チョッちゃん』 (石井 宏著・草思社)という本を持参しました。

この『チョッちゃん』は「涙なしに読めない放浪犬チョッちゃんの物語」という本の帯と、ぱらぱらと覗き見た内容とで衝動買いしたものです(動物のお涙ものに弱いのです〜)。

病院では優に2時間は待たされましたので、この間一気に読むことができました。内容は動物もので肩のこらないものでしたし、お話にぐっと引き込まれてしまったこともあるでしょう。いつしか私は本の世界に没頭・・・待合室は私の読書の小部屋とあいなったのでしたー。

★     ☆     ★     ☆     ★

(この本の著者は、主役である一家のおそらくは友人か知人であると思われます。実話であるこの話はそんな第三者の目から冷静に書かれています。)

放浪犬、チョッちゃんは骨と皮ばかりのやせこけた犬でした。おまけに極度の栄養失調からか、毛がすべて抜けてしまっている”はだか犬”でした。こんなみずぼらしい犬に主人公・西井文恵さんは毎日えさを与え続けました(文恵さんはたくさんの猫ちゃん達にも毎日あげていました)。

たくさん食べては毎度お腹が膨れるチョッちゃんが、翌日にはまた骨と皮になって現れるのを不思議に思った文恵さん・・・彼女はあるときチョッちゃんのあとをつけていきます。そしてある事実に突き当たることになるのです。

実はこのチョッちゃん、廃屋で自分の産んだ仔犬3匹と暮らしていたのです。チョッちゃんには仔犬に与えるえさもなく(栄養失調で母乳も出ない)、窮地の策として文恵さんからもらったえさをたらふく食べてはそれを吐き戻して仔犬たちに与えるという子育てをしていたのでした(吐き戻すとは鳥のようですね。犬にそんな知恵があるとは驚きでした)。

その後もたくさん食べては廃屋に帰って行き、また翌日痩せこけた体で現われる・・・というチョッちゃんと文恵さんの日々は続きます。やがて優しさと愛をもって自分に接してくれる文恵さんを信頼したのでしょう・・・あるときチョッちゃんは一匹の仔犬を連れて文恵さんの前に現れるのです。文恵さんに自分の子を託しに来たのでした。おりしも保健所がこの親子を捕獲しようと動き出そうとしているときでした。

仔犬はすでに覚悟ができているのか、何もいわず文恵さんにすんなりと抱かれました。チョッちゃんはじっと座ったまま文恵さんの腕の中を見ています。親子の別れの瞬間でした。「どうぞよろしくお願いします」というチョッちゃんの声が文恵さんには聞こえてくるようでした。

その後もチョッちゃんは2匹目、3匹目とそれぞれの子の「子別れの時期」を見計らって文恵さんに託しに来ます。そうして自分の大役を果たして廃屋へと帰って行きますが、やがてはチョッちゃん自身もこの西井一家に引き取られることになります(良かったネ!)。

健康を回復したチョッちゃんの毛はあるときたった2日間で見事に生え揃います。ここに至って初めてチョッちゃんが立派な柴犬であることが分かるのでした(”はだか犬”のときは犬種が全くわからなかったそうです)。

時は流れ2003年3月、チョッちゃんは七歳(推定)で永眠。元は飼い犬でしたが放浪犬となってからは自分の体を犠牲にしての子育てをし、波乱万丈の人生(犬生?)を送ったチョッちゃん。後半生は西井家に引き取られて自分の子とともに幸せなときを過ごすことが出来ました。あまりに急で、あまりにあっけないチョッちゃんの死を西井夫妻は「桜のよう・・」と評します。

「でも、短かったけれど、チョッちゃんはすばらしい命を全うしたね。命というものの模範のようなものがあるとすれば、それはチョッちゃんだったね。」 「ねえ、あなた・・・・・もし、チョッちゃんが桜だったとしたら、これから毎年会えるわね。」

こんな風に語る夫妻の最後の言葉がとても印象的です。

☆     ★     ☆

このチョッちゃんという柴犬の類まれな賢さはとても感動的です。しかしそれと同時にこの話で感じ取れる西井家の人々の人間性というものもまた感動的なのでした。娘さんは日本の学校に適応できず、やがては本人の希望でインターナショナルスクールへと進学。その後アメリカの芸術高校に入学・・・成長した後はサンフランシスコ・オペラ劇場のヴァイオリン奏者として活躍されます。日本の中では「適応障害」のひとことで片付けられてしまいそうなお嬢さんを、音楽を愛するこの夫妻は実におおらかに育てます。そして動物達に注ぐ大きな大きな愛・・・読んでいてとても感心します。そんなこともまたこの話に大きな花を添えているようでした。

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ちょうど病院の待合で「そろそろ名前が呼ばれるかな・・・」と思われる頃この本を読み終わりました。感動で胸はいっぱい・・・目はうるうるとなっています。「いま呼ばれたらどうしよう」・・・内心あわてました。先生の前には涙ぐんだ患者が・・・どうみても自分を重症患者だと思い込んでいるバカで哀れな女としか映らないでしょう。いや〜ん(汗)。本を閉じ、しばし目も閉じました。そして冷静さを取り戻したころ、「さくらこさ〜ん」と呼ばれ診察室へ・・・。ああ、セーフ!

最後に検査の結果に問題がなかったことも付け加えておきまーす(ご心配おかけしました)。 m(_ _)m

・『チョッちゃん』    犬もネコも鳥も。。。みんな可愛いネ♪